しとしとと降り注ぐ梅雨。
この時期、私たちの目を楽しませてくれるのが紫陽花(あじさい)です。
雨に濡れてなお鮮やかに咲くその姿は、梅雨の憂鬱さを忘れさせてくれます。
漱石山房記念館でもこの時期、たくさんの紫陽花が花を咲かせてくれます。

漱石公園に咲く紫陽花

紫陽花の魅力は何といってもその色の多様さ。
青や紫、ピンク、白など、土壌のpHによって花の色が変わるという性質を持ち、
まさに「自然が描くグラデーション」。
一株でも様々な色合いが見られるのが面白いところです。
紫陽花は日本原産のガクアジサイが母種となって改良された園芸品種で、
古くは奈良時代の『万葉集』にも登場します。
「言(こと)問はぬ 木すら味狭藍(あじさい) 諸弟(もろえ)らが
練(ねり)の村戸(むらと)に あざむかえけり」 大伴家持(おおとものやかもち)
現代語に訳すると「ものをいわない木でさえ、紫陽花のように移り変わりやすい。
(ことばをあやつる)諸弟(もろえ)たちの巧みな言葉に、わたしはすっかり騙されてしまった。」
ここでも移り変わりやすさの象徴として紫陽花が使われています。
その後、紫陽花が広く親しまれるようになったのは江戸時代以降のこと。
園芸文化の発展とともに多くの品種が生まれ、
浮世絵や俳句にも登場するようになりました。
その後、ヨーロッパに渡り、
品種改良を経てよりバラエティに富んだ「Hydrangea(ハイドランジア)」として世界に広まったと言われています。
色を変える紫陽花は、
「移り気」「無常」といった少し切ない花言葉も持ちますが、
一方、花期が比較的長く、一生懸命咲き続けているように見えることから
「辛抱強さ」という花言葉もあるそうです。
雨の音に包まれながら、紫陽花の静かな美しさに心を預ける。
そんな梅雨の楽しみ方も、悪くないものです。
参考文献:金田初代・金田洋一郎『四季別 花屋さんの花カラー図鑑』西東社、1995年
岩槻秀明『散歩の花図鑑』新星出版社、2012年
テーマ:その他 2025年6月17日