新宿区立新宿歴史博物館では、
学芸員資格の取得を目指す博物館実習生を受け入れています。
令和2年度は5人の実習生が参加して、10日間の博物館実習が行われています。
新宿歴史博物館内だけでなく、漱石山房記念館でも実習を行いましたので、
実習生による漱石山房記念館のレポートをお届けします。
はじめまして、博物館実習に参加させて頂きました、熊倉です。
この記念館の目玉といったらやはり、漱石山房書斎の再現展示でしょう。
写真と見比べてみても、本当にそっくりで、漱石の息遣いが聞こえてくるようです。
実はこの再現には、想像を超えるこだわりが隠されていました。
今回はそんな「記憶の再現」にまつわるこだわりポイントを2つ、ご紹介させて頂きます。
1.八畳・十畳問題
漱石山房は、漱石自身の記述や絵画、
門下生の松岡譲や芥川龍之介らの記述に基づき再現されています。
しかし、彼らの記述には食い違う部分があり、
書斎・客間の広さも8畳と10畳の二説があり、はっきりしませんでした。
そこで使われたのが、客間にあった安井曾太郎の洋画「麓の町」です。
この絵画の寸法と、昭和3(1928)年に撮影されたこちらの客間の写真に写る同じ絵画とを比べ、
書斎・客間とも10畳であることをつきとめました。
漱石が最晩年を過ごした書斎・客間は、このように再現されたのです。
2.壁紙の紋様
室内の壁紙についても、漱石自身は壁紙は白であると述べており、はっきりしませんでした。
そこで、この壁紙を作成したと思われる職人・栗山弘三郎の証言から
「銀杏鶴」紋の壁紙として再現されました。
作品を通してしか出会えなかった漱石の姿を、眼前に見せてくれるこの再現展示。
みなさまも漱石山房記念館で、漱石と同じ景色を見てみてはいかがでしょうか?
「記憶して下さい。私はこんな風にして生きて来たのです。」
―「こころ」大正3年
(博物館実習生:熊倉)