吾輩ブログ 一覧
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夏目漱石の千円札
現在、日本で発行されている千円札の表面には、
細菌学者の野口英世の肖像が描かれています。
これは平成16年から使われているものですが、
夏目漱石の肖像が描かれた、
1つ前の千円札を覚えている方も多いのではないでしょうか。
この夏目漱石の千円札は、昭和59年に発行が開始し、
平成19年に支払い停止となりました。
※「支払停止」とは、日本銀行から市中銀行へそのお札の支払いを停止することです。お札は、硬貨と違い「記番号」と呼ばれるシリアルナンバーが1枚1枚に印字されており、
頭にアルファベットが1文字または2文字、次に6桁の数字、
末尾にアルファベット1文字というように組み合わされています。
この数字の部分が「777777」などのようにゾロ目が揃っていたり、
「123456」などのように並んでいたりするものは希少とされ、
コレクターの間では高値で取引されることがあります。
中でも、最初のアルファベットが「A」で、なおかつ数字が「000001」などのように
1桁のものは特に貴重とされており、新しいお札が発行された時には、
「A000001A」番のものは日本銀行が設立した貨幣博物館に納め、
その後の2番以降の若い番号は、肖像が描かれた人物ゆかりの団体や、
人物以外に印刷された意匠とかかわりの深い団体などに配布されることが通例になっています。現在(令和3年)使用されている1万円札(肖像:福澤諭吉)の「2番」は、
福澤諭吉が創立した慶應義塾に配布されています。
5千円札(肖像:樋口一葉)の「2番」は、
樋口一葉がかつて荒物・駄菓子屋を開いたゆかりの地であり
「一葉記念館」もある台東区に配布されています。
千円札(肖像:野口英世)の「2番」は、
福島県にある野口英世記念館に配布されました。そして、夏目漱石が描かれた1つ前の千円札の「2番」は、
漱石が生まれ、亡くなった地である、ここ新宿区に配布されました。
この「2番」の千円札は、今でもこの新宿区立漱石山房記念館の収蔵庫で、
大切に保管されています(常時展示しているわけではありませんので、ご注意ください)。テーマ:漱石について 2021年12月24日 -
漱石のお墓と芥川龍之介「年末の一日」
漱石山房記念館では一昨年に続いて、12月9日の漱石忌に、
夏目漱石のお墓のある雑司ヶ谷霊園を訪れる文学さんぽを実施しました。
ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。芥川龍之介は「年末の一日」という作品のなかで、
12月のある日に漱石のお墓参りをする情景を描いています。「K君のお墓と言ったのは夏目先生のお墓だった。
僕はもう半年ほど前に先生の愛読者のK君にお墓を教える約束をしていた。
年の暮にお墓参りをする、――それは僕の心もちに必ずしもぴったりしないものではなかった」「僕」は友人で新聞記者の「K君」と連れ立って夏目漱石のお墓参りに出かけますが、
雑司ヶ谷霊園に到着しても、漱石の墓が見つかりません。「僕等は終点で電車を下り、注連飾りの店など出来た町を雑司ヶ谷の墓地へ歩いて行った。
大銀杏の葉の落ち尽した墓地は不相変きょうもひっそりしていた。
幅の広い中央の砂利道にも墓参りの人さえ見えなかった。
僕はK君の先に立ったまま、右側の小みちへ曲って行った。
(中略)が、いくら先へ行っても、先生のお墓は見当たらなかった。
「もう一つ先の道じゃありませんか?」
「そうだったかも知れませんね」
僕はその小みちを引き返しながら、毎年十二月九日には新年号の仕事に追われる為、
滅多に先生のお墓参りをしなかったことを思い出した。
しかし何度か来ないにしても、お墓の所在のわからないことは僕自身にも信じられなかった」雑司ヶ谷霊園はとても広いので、道に迷ってしまう気持ちも少しわかるような気がします。
「何度も同じ小みちに出入した後、僕は古樒を焚いていた墓地掃除の女に途を教わり、
大きい先生のお墓の前へやっとK君を連れて行った。
お墓はこの前に見た時よりもずっと古びを加えていた。
おまけにお墓のまわりの土もずっと霜に荒されていた。
それは九日に手向けたらしい寒菊や南天の束の外に何か親しみの持てないものだった。
(中略)「もう何年になりますかね?」
「丁度九年になる訣です」
僕等はそんな話をしながら、護国寺前の終点へ引き返して行った」墓地掃除をしていた女性に尋ねてやっと漱石のお墓をみつけた二人は、
なんとか無事にお墓参りを済ませますが、
現在は都立霊園公式Webサイトから地図をPDFでダウンロードすることができます。「都立霊園公式サイトTOKYO霊園さんぽ」の
雑司ヶ谷霊園の園内マップはこちらをクリック霊園は、故人が眠る、慰霊の場所です。
霊園めぐりのマナーを守って静かに散策していただくようお願いいたします。※引用文の表記は芥川龍之介『戯作三昧・一塊の土』新潮文庫(昭和43年初版、平成23年改版)収録の
「年末の一日」に従いました。テーマ:漱石について 2021年12月10日