漱石山房記念館では一昨年に続いて、12月9日の漱石忌に、
夏目漱石のお墓のある雑司ヶ谷霊園を訪れる文学さんぽを実施しました。
ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。
芥川龍之介は「年末の一日」という作品のなかで、
12月のある日に漱石のお墓参りをする情景を描いています。
「K君のお墓と言ったのは夏目先生のお墓だった。
僕はもう半年ほど前に先生の愛読者のK君にお墓を教える約束をしていた。
年の暮にお墓参りをする、――それは僕の心もちに必ずしもぴったりしないものではなかった」
「僕」は友人で新聞記者の「K君」と連れ立って夏目漱石のお墓参りに出かけますが、
雑司ヶ谷霊園に到着しても、漱石の墓が見つかりません。
「僕等は終点で電車を下り、注連飾りの店など出来た町を雑司ヶ谷の墓地へ歩いて行った。
大銀杏の葉の落ち尽した墓地は不相変きょうもひっそりしていた。
幅の広い中央の砂利道にも墓参りの人さえ見えなかった。
僕はK君の先に立ったまま、右側の小みちへ曲って行った。
(中略)が、いくら先へ行っても、先生のお墓は見当たらなかった。
「もう一つ先の道じゃありませんか?」
「そうだったかも知れませんね」
僕はその小みちを引き返しながら、毎年十二月九日には新年号の仕事に追われる為、
滅多に先生のお墓参りをしなかったことを思い出した。
しかし何度か来ないにしても、お墓の所在のわからないことは僕自身にも信じられなかった」
雑司ヶ谷霊園はとても広いので、道に迷ってしまう気持ちも少しわかるような気がします。
「何度も同じ小みちに出入した後、僕は古樒を焚いていた墓地掃除の女に途を教わり、
大きい先生のお墓の前へやっとK君を連れて行った。
お墓はこの前に見た時よりもずっと古びを加えていた。
おまけにお墓のまわりの土もずっと霜に荒されていた。
それは九日に手向けたらしい寒菊や南天の束の外に何か親しみの持てないものだった。
(中略)「もう何年になりますかね?」
「丁度九年になる訣です」
僕等はそんな話をしながら、護国寺前の終点へ引き返して行った」
墓地掃除をしていた女性に尋ねてやっと漱石のお墓をみつけた二人は、
なんとか無事にお墓参りを済ませますが、
現在は都立霊園公式Webサイトから地図をPDFでダウンロードすることができます。
「都立霊園公式サイトTOKYO霊園さんぽ」の
雑司ヶ谷霊園の園内マップはこちらをクリック
霊園は、故人が眠る、慰霊の場所です。
霊園めぐりのマナーを守って静かに散策していただくようお願いいたします。
※引用文の表記は芥川龍之介『戯作三昧・一塊の土』新潮文庫(昭和43年初版、平成23年改版)収録の
「年末の一日」に従いました。