漱石山房記念館のある早稲田から江戸川橋にかけての一帯には、
新宿区の地場産業の一つである、印刷業の会社が多くあります。
この地域に印刷業の会社が集まり始めたのは、明治時代。
日本初の国産洋装本を印刷するなど、日本の印刷業の先駆者だった秀英社が、
明治19(1886)年に市ヶ谷加賀町に工場を開設したのがきっかけと言われています。
明治40(1907)年には日清印刷が榎町に工場を開設、
その後、この2つの会社が合併し、現在の大日本印刷となりました。
下請けとして支える中小の印刷業者も次々とこの地域に集まり、今に至ります。
(参考Webサイト:一般社団法人新宿区印刷・製本関連団体協議会“新宿区は印刷文化の拠点”
http://insatsukanren-shinjuku.jp/concierge/shinjyuku_insatsu.html )
漱石山房記念館のすぐ近く、榎町にある有限会社佐々木活字店は大正6(1917)年創業。
日清印刷鋳造部の責任者をしていた佐々木巳之八さんが、活字鋳造販売業を始めたのだそうです。
新宿区の地域文化財にも登録されている佐々木活字店では、
現在も活字の鋳造から文選、植字、印刷の全行程を手がけており、
四代目の佐々木勝之さんは『デザインのひきだし』や
『BRUTUS』などの雑誌にも紹介されている、注目の職人さんです。
佐々木活字店の詳細はこちらのページをご覧ください。
そんな佐々木さんに、新宿区にある漱石山房記念館ならではの、
特別なミュージアムグッズを作りたいと相談して出来上がったのが、活版印刷メモ帳「夢十夜」。
夏目漱石の作品「夢十夜」から「百年待つてゐて下さい」の言葉が印象的な第一夜の一部分を、
表紙と中のメモ用紙に活版印刷であしらっています。
白と青の2色で、各色500円。
商品の詳細はミュージアムショップのページをご覧ください。
特に表紙は「夢十夜」が収録された『四篇』の初版本をもとにした旧字旧仮名遣い総ルビ、
漢字と仮名で文字の大きさを変えてデザイン性を高めていますが、
この活字組版はとても手の込んだ仕事です。
手に取ってみると「本当に活版印刷?」と思ってしまうくらい、凹凸の少ない仕上がり。
活版印刷といえば印刷面の凹凸が特徴と思われる方も多いと思いますが、
紙をなるべく凹まさず、ムラなく綺麗に仕上げるのが「キス・インプレッション」と呼ばれる職人技。
紙にキスをするように、必要最小限の圧力でインクをのせるのが職人の腕の見せ所です。
中のメモ用紙には一枚一枚、活版印刷で
「百年待つてゐて下さい」の一文が印刷されている贅沢なつくりです。
佐々木活字店で使われている飾り罫の中から、
漱石山房記念館の前庭に植えられているトクサに似たものを選びました。
新宿の職人技を感じられる活版印刷メモ帳「夢十夜」は、
11月より漱石山房記念館のミュージアムショップのみで販売しています。
各色限定500部の販売ですので、どうぞお早めにお求めください。