現在、2階資料展示室では「漱石山房記念館 初版本コレクション」を開催中です。
漱石の初版本の装丁は橋口五葉、津田青楓、そして漱石自らが手がけました。
『吾輩は猫である』の斬新なデザイン、表紙に漆を使った『草合』、
表紙から裏表紙までぐるりと繋がったデザインの『虞美人草』など
趣向を凝らした装丁の美しさは圧巻です。
漱石の初めての小説、初めての単行本、うつくしい本を出したいという
漱石の思いが詰まった『吾輩は猫である』上編から『明暗』まで初版本21冊を展示しています。
ここでは2番目に発行された単行本で、「倫敦塔」や「カーライル博物館」等7篇の短編小説を収めた
『漾虚集(ようきょしゅう)』(明治39(1906)年)をご紹介します。
装丁は橋口五葉、題簽(だいせん)、挿絵は中村不折。
表紙は木綿の藍染の布地に収録作品名が書かれた絹の題簽、
開くと五葉による美しい扉絵と短編それぞれの中扉があり、
各話では漱石をうならせた不折による挿絵に出会えます。
発刊準備を進めていた明治39年3月2日に、
漱石は不折と五葉に宛ててそれぞれ次のように書き送っています。
〈不折宛〉
今迄のさし画に類なき精巧のものにて出来の上は定めし人目を驚かすならんと嬉しく存候。
(中略)
倫敦塔の図の如きは着色の点に於いて慥(たし)かに当今の画家をあつと云はしむるにたる名品と存候。
〈五葉宛〉
あの様な手のこんだものをかいて頂くのは洵(まこと)に難有仕合(ありがたきしあわせ)に御座候。
御蔭にて拙文も光彩を放ち威張つて天下を横行するに足ると存候。
(中略)
小生の尤も面白しと思うふは大兄と不折の画が毫も趣味に於て重複せざる点に有之候(これありそうろう)。
漱石は趣が異なる二人の作風を「面白し」と肯定的にとらえて評価しています。
藍色の表紙をめくると、次々とあらわれる美しい図案は、読み進めるうえで視覚的にも楽しませてくれます。
会場では初版本を開いて展示することはできませんが、漱石がこだわった扉や奥付、
挿絵等は一部をパネルにて紹介しています。
また、地下1階図書室には復刻本を配架しています。
『吾輩は猫である』のアンカット(小口と地が裁断されておらず袋とじの状態)、
漱石自ら装丁した『こころ』の扉、各本の見返しの模様も確認することができます。
図書室にもお立ち寄りいただき、復刻本を手に取ってページをめくってみてはいかがでしょうか。