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《特別展》「永遠の弟子 森田草平」見どころ紹介

現在開催中の《特別展》「永遠の弟子 森田草平」の見どころをご紹介します。
展示の詳細はこちらをクリック
夏目漱石の門下生の一人、森田草平(本名米松)は、今年で生誕140年を迎えました。
草平の作品の中に「自叙小伝」(『明治大正文学全集』第29巻、春陽堂、昭和2年)
というものがあります。
草平の半生が彼自身の言葉で簡潔にまとめられ、資料的にも貴重なことから、
文章の抜粋を展示パネルに多用しました。
このため前半は草平の「一人語り展示」の趣きを持たせました。

展示風景

第1章「文学者としてのスタート」
草平は、早くから文学を志しましたが、東京帝国大学英文学科に入学した明治36(1903)年、
たまたま選んだ本郷区丸山福山町(現文京区西片町)の下宿が、
樋口一葉が「たけくらべ」を執筆した場所であることを知り、
文学者としての未来が保証されたかのように有頂天になります。
図録に掲載することは出来ませんでしたが、会場で展示している「森田草平関係地図」で、
草平の住居変遷などを確認してください。
第2章「永遠の師との出会い」
明治38(1905)年暮れ、草平は、自ら執筆した短篇「病葉(わくらば)」の批評を請うため、
千駄木の漱石邸を訪問します。
漱石から12月31日付けで長文の適切な批評をもらい感激した草平は、
以後漱石の弟子となることを決意し、漱石の下に出入りします。
明治40(1907)年7月、漱石から新たな筆名「草平」を命名してもらいます。
展示ではこの筆名の由来となった漢詩七字を記した漱石の葉書(寄託資料)を展示しています。
草平の短篇「病葉」は、漱石が批評した初出の『芸苑』創刊号(明治39年1月)
(日本近代文学館蔵)を展示し、図録にも全文掲載しました。
なお、漱石の書簡などは長文のため釈文が長くなってしまうので、
会場では釈文プリントを配布しています。
第3章「煤煙事件の余波」
明治41(1908)年3月、閨秀文学会の講師だった草平は、
聴講生だった平塚明(はる。のちのらいてう)と駆け落ち事件を起こします。
草平の代表作となる「煤煙」は、この心中未遂の顛末を小説にしたもので、
漱石の奨めによったものでした。
展示では、事件を報道した『東京朝日新聞』や新聞連載時の「煤煙」の切り抜き、
単行本となった『煤煙』全4巻の初版本、
漱石から草平への書簡及び小宮豊隆への草平の葉書(みやこ町歴史民俗博物館蔵)
などを展示しています。
なお、草平は『輪廻』などの長編小説の他、
鈴木三重吉主宰の『赤い鳥』に掲載した「鼠の御葬らひ」などの児童文学、
そしてイプセンなどの数多くの外国文学の翻訳、
更に『豊臣秀吉』などの歴史小説も発表しています。
ここではそれらの未発表原稿も含め、草平作品の一部を展示しています。
第4章「漱石山房の森田草平」
草平は、漱石作品の研究の他、漱石の伝記や漱石に関する随筆も多く発表しています。
著書の『夏目漱石』『続夏目漱石』(以上、甲鳥書林、昭和17・18年)は、
同門の小宮豊隆による『夏目漱石』(岩波書店、昭和13年)とは
好対照な内容として評価があります。
また、本コーナーでは、門下生たちによる草平を追憶した資料を展示紹介しています。
同門の内田百閒による「実説艸平記」(昭和25年)には
「いつでも金縁眼鏡を掛けてゐて、銀縁の私にお説教する。
銀縁はおよしなさい。見つともないだけでなく、
外した後に黒い形がついたり、さはりが悪い。
眼鏡は金縁に限つたものですよ。
体裁ばかりでなく、鼻や耳にあたる工合が柔らかくて、
矢つ張り金と云うものはいいですなあ。」

とある草平愛用の金縁の丸眼鏡を、草平の生まれ故郷岐阜市の森田草平記念館からお借りし、
展示しています。
第5章「朝日文藝欄」
漱石が主宰で、草平が編集を担当した朝日新聞の文芸欄について紹介しています。
朝日文芸欄は、漱石・草平を始め漱石の門下生による文芸批評を中心に多種多彩な文芸記事を掲載しました。
しかし、漱石と草平、編集を補助した小宮豊隆らの考えに距離が生じたこともあり、
草平の「自叙伝」をきっかけとして1年11ヶ月で廃止となりました。
中止するに至った心情を吐露した漱石の小宮宛の書簡(みやこ町歴史民俗博物館蔵)などを展示しています。

展示は11月9日(火)から一部展示替えを行い、
会場では担当学芸員による「オンラインギャラリートーク」の動画(約20分)を上映しています。
草平は、晩年に至るまで、漱石の弟子であることを宣言し、
「私は、いわゆる門下生の中でも一番よく先生を知っていたとは言われない。
一番多く先生から可愛がられたとは、なおさら言われない。
が、一番深く先生に迷惑をかけたことだけは確かである。
迷惑をかけたということは一向自慢にはならない。
ただ、そういう自覚を持った時、私は一番先生に接近するような気がする。」
(「先生と私」)と述べています。
漱石「永遠の弟子」を自称した作家・森田草平に迫った展示会です。
どうぞご来館下さい。

テーマ:漱石について    2021年11月5日
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