「草枕」に登場する英国作家、ジョージ・メレディス
「草枕」の中には、詩や小説など、いくつかの英国文学が引用されています。
そのなかでジョージ・メレディス(1928~1909年)は、
漱石が影響を受けた作家のひとりです。
メレディスの作品としては、「ビーチャムの生涯」、
「シャグパットの毛剃り」が「草枕」中で引用されています。
展示している『漱石文学瑣談』(大正6〈1917〉年7月15日)にある
「ジョオジ・メレデイス」は、明治42(1909)年にメレディスが亡くなったことを受け、
同年5月21日、22日に「国民文学」(『国民新聞』紙上)に掲載された、
漱石と門下生の野上臼川(豊一郎)とのメレディスに関する対談「メレディスの訃」を
まとめたものと思われます。
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展示中の『漱石文学瑣談』
その中で漱石は、メレディスの「シャグパットの毛剃り」を高く評価しており、
「よくあんなに盛んな想像力が続かれるものだと思ふ」と記しています。
東北大学附属図書館に所蔵されている漱石の旧蔵書の中にあるメレディスの作品は、
メレディスの全集(The Works of George Meredith)の他3点確認できます
(東北大学附属図書館『漱石文庫目録』1971年)。
また蔵書への書き込みは、『定本漱石全集』第27巻によれば
10点確認できます。中でも「草枕」第9章に引用されている「ビーチャムの生涯」の末尾部分には、
「カヽル結末は容易になし。余音(韻)と云ふは此事なり」と記し、
作品の結末について感嘆する書き込みが記されています。
漱石は野上臼川との対談でメレディスの作品は
「大抵皆読んだ。そうして大へんエライと思ってる」としています。
蔵書への書き込みから推測すると、
漱石はメレディスの全集を読んだのではないでしょうか。
現在、メレディスの作品は、代表作として知られる『エゴイスト』の他、
『リチァード・フェヴェレルの試練 父と息子の物語』、
「シャグパットの毛剃」(『ゴシック名訳集成2 暴夜幻想譚』)、
「喜劇論」など数点が翻訳されていますが、多くの作品は翻訳されていません。
漱石が影響を受けたメレディスの作品がどの様なものであったのか、
「草枕」に引用されている以外の作品についても興味が尽きません。
(漱石山房記念館前館長 鈴木靖)