吾輩ブログ 一覧
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博物館実習生による漱石山房記念館レポート7 展示室照明の明るさの秘密
新宿区立新宿歴史博物館では、
学芸員資格の取得を目指す博物館実習生を受け入れています。
令和3年度も約1ヶ月間の博物館実習が行われ、
新宿歴史博物館内だけでなく、漱石山房記念館でも実習を行いました。
実習生による漱石山房記念館のレポートをお届けします。突然ですが皆さん、博物館や美術館の展示室が少し薄暗いと感じたことはないでしょうか?
漱石山房記念館でも受付や入り口はとても明るいのに対して展示室の照明は薄暗く、
そして少し肌寒く感じることもあると思います。
しかし、展示室の照明が薄暗いのにはちゃんとした理由があります。
博物館の資料は多くが昔に作られたものばかりです。
漱石山房記念館に展示してある資料も当時のものであれば紙とはいえ100年以上前のものになり、
さらに資料の多くには万年筆を使って書かれたインクが付着しています。
紙やインクは光と熱に弱いため強い照明を使用することができないのです。漱石山房記念館の鈴木館長によると、
漱石山房記念館の2階資料展示室の照度は120ルクスまでに統一しているそうです。
そうすることでインクが日焼けして薄くなることを防ぎ、
資料の損傷を抑え、良い状態で保存することができるといいます。
また、博物館の照度はJIS照明基準総則によって定められた照度で展示することが決められており、
おおよそ20ルクスから1000ルクスの照度の間で資料に合わせて照らしています。
一方で私たちが普段生活するリビングや食卓の照度は50ルクスから1000ルクス、
図書室の照度もJIS照明基準総則により最低でも500ルクスから800ルクスとされており、
漱石山房記念館の2階資料展示室の照明は、図書室と比べてもおよそ4分の1ほどの照度しかありません。そのため、展示室の照明が少し薄暗く感じてしまいます。
しかし、展示室の照明は資料保存のために貴重なものや価値のあるものほど照度を低くしている
ということを知った上で展示を見てみると、資料の持つ価値や重要性が分かると思います。※ルクス(lx)照明器具によって照らされた場所の明るさの値
※参考資料
・JIS照明基準総則 Z9110-2010.
・Panasonic.“美術館・博物館の照明”.照明設計サポートサイト.
(https://www2.panasonic.biz/ls/lighting/plam/knowledge/document/0209.html)(博物館実習生:大塩)
テーマ:その他 2021年9月17日 -
博物館実習生による漱石山房記念館レポート6 漱石の庭〜小説の中の植物たち〜
新宿区立新宿歴史博物館では、
学芸員資格の取得を目指す博物館実習生を受け入れています。
令和3年度も約1ヶ月間の博物館実習が行われ、
新宿歴史博物館内だけでなく、漱石山房記念館でも実習を行いました。
実習生による漱石山房記念館のレポートをお届けします。漱石山房記念館1階導入展示の「漱石と植物」の展示パネルによると、
漱石山房には、サクラ・ヒノキ・アオギリといった大木から、
季節の山野草、敷地境の生垣や裏庭の花壇に至るまで多種多様な植物が見られたそうです。
漱石やその家族、門下生が残した記録などを元に数えてみると、なんと20種類以上にもなるとか!
特にバショウやトクサは漱石のお気に入りで、ここ漱石山房記念館を象徴する植物でもあります。漱石は植物を愛でるだけではなく、度々自分の作品にも登場させました。
『行人』には
「二三週間はそれなりに過ぎた。そのうち秋が段々深くなった。
葉鶏頭の濃い色が庭を覗くたびに自分の眼に映った」
(夏目漱石『行人』新潮文庫、平成23年改版)
という一節があります。
葉鶏頭の実物を見たことがない方は見逃してしまうかもしれませんが、
目にも鮮やかな赤色が印象的で、雨の日でも存在感のある植物です。
元来神経質な性分であった兄に、主人公が追い詰められていく日々の中で、
この葉鶏頭の鮮やかな色彩はどのような意味を持って彼の視界に映っていたのか……?
と考えてみるのも良いかもしれません。
漱石の小説の中に登場している植物の特徴や特性に注目しながら、
作品を鑑賞してみるのも新しい楽しみ方になるのではないでしょうか。(博物館実習生:伊藤)
テーマ:その他 2021年9月14日 -
博物館実習生による漱石山房記念館レポート5 漱石と猫
新宿区立新宿歴史博物館では、
学芸員資格の取得を目指す博物館実習生を受け入れています。
令和3年度も約1ヶ月間の博物館実習が行われ、
新宿歴史博物館内だけでなく、漱石山房記念館でも実習を行いました。
実習生による漱石山房記念館のレポートをお届けします。「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」
―夏目漱石『吾輩ハ猫デアル』明治38年「夏目漱石」と聞いて、誰もが思い浮かべるのはこの一文ではないでしょうか。
「吾輩は猫である」が雑誌『ホトトギス』に掲載され、
夏目漱石の名を一躍有名にしたのは、多くの人がご存知の通りです。では、漱石が実際に猫を飼っていたことはご存知でしょうか。
今回は、漱石と飼い猫についてご紹介します。夏目家初代の猫は、明治37(1904)年の6〜7月頃に千駄木の家に迷い込んだ子猫でした。
鏡子夫人は猫嫌いで、何度も追い払っていましたが、
漱石が「そんなに入って来るんなら、おいてやったらいいじゃないか」と言ったことで、
猫は一家に加わることになります。鏡子夫人は相変わらず猫を嫌っていましたが、
家に来る按摩さんが「福猫だ」と言ったことで、扱いをあらためます。
実際、病を患っていた漱石も機嫌が良くなり、
翌年に猫目線で執筆した小説『吾輩は猫である』が大ヒットしました。
その後、ここ早稲田に引っ越す際も連れてきています。明治41(1908)年9月13日に初代の猫は死に、書斎裏の桜の樹の下に埋められました。
漱石は、その翌日に松根豊次郎(東洋城)ら門下生数名に「猫の死亡通知」を送りました。
漱石の死後、猫の13回忌には供養塔も建てられました。
供養塔はその後の空襲で壊れてしまいましたが、
その残欠を利用して再興されたものが「猫の墓(猫塚)」として漱石公園で見られます。
猫は夏目家にとって大事な存在になっていたことがうかがえます。
ちなみに、この猫にも名前はなかったそうです。漱石山房記念館にもいたるところに猫のパネルがあります。
私が数えたところ大きいものが4匹、小さいシルエットが11匹いました。
漱石山房記念館に向かう漱石山房通りの案内板にも猫のモチーフが使われています。
ぜひ記念館にお越しの際は猫の案内を辿ってみてください。※参考文献
・夏目鏡子 述・松岡譲 筆録『漱石の思い出』(文春文庫、1994年)
・半藤末利子『夏目家の福猫』(新潮文庫、2008年)(博物館実習生:内田)
テーマ:その他 2021年9月10日 -
博物館実習生による漱石山房記念館レポート4 漱石山房記念館情報検索システムについて
新宿区立新宿歴史博物館では、
学芸員資格の取得を目指す博物館実習生を受け入れています。
令和3年度も約1ヶ月間の博物館実習が行われ、
新宿歴史博物館内だけでなく、漱石山房記念館でも実習を行いました。
実習生による漱石山房記念館のレポートをお届けします。今回は漱石山房記念館の地下1階にある漱石山房記念館情報検索システムについてご紹介します。
漱石山房記念館情報検索システムは漱石関連資料を広く公開するという目的の為に設置されました。
このシステムには新宿区が所蔵している資料を検索出来る「新宿区所蔵資料」、
全国にある夏目漱石関係の資料を検索出来る「全国漱石関係資料」、
漱石本人や漱石山房・作品解説など漱石に関する情報を検索出来る「漱石事典」の3つのページがあります。・「新宿区所蔵資料」
「新宿区所蔵資料」では現在展示室で展示されている資料だけでなく
新宿区が所蔵している様々な漱石関係資料を写真と解説付きで見ることが出来ます。資料によっては翻刻もされています。
拡大するとそれぞれの文字の読み方もわかるようになっているのでご活用ください。・「全国漱石関係資料」
「全国漱石関係資料」では新宿区所蔵の資料以外の
全国の博物館・図書館に所蔵されている漱石関係資料を検索することが出来ます。
新宿区が所蔵していない資料の検索だけでなく、
漱石関係の資料を所蔵している施設についての情報も調べる事が出来ます。・「漱石事典」
「漱石事典」では漱石本人や関係人物だけでなく、
漱石山房の建物についてや作品解説など、漱石に関する様々な情報を検索する事が出来ます。
漱石についてもっと深く知りたいという人はぜひご活用ください。この漱石山房記念館情報検索システムは漱石山房記念館でしか利用出来ないシステムなので
訪れた際にはぜひご利用ください。(博物館実習生:井上)
テーマ:その他 2021年9月7日 -
博物館実習生による漱石山房記念館レポート3 漱石の言葉を持ち帰ろう!
新宿区立新宿歴史博物館では、
学芸員資格の取得を目指す博物館実習生を受け入れています。
令和3年度も約1ヶ月間の博物館実習が行われ、
新宿歴史博物館内だけでなく、漱石山房記念館でも実習を行いました。
実習生による漱石山房記念館のレポートをお届けします。記念館奥の階段を登り、2階展示室にいたる廊下の壁に、夏目漱石の言葉がたくさん並んでいるのをご存知ですか?
これらは漱石の作品や、親しい友人・門下生たちに宛てた書簡の中から一文を抜粋してパネルにしたもので、
誰もが知っている有名なものから、ハッとさせられるような鋭い一節まで様々です。
ひとつひとつから漱石の思いや人生観がうかがえ、“言葉の力”を存分に感じることができるスペースとなっています。「漱石文学の言葉を大事にしたい」という思いから、
漱石山房記念館のミュージアムグッズには、漱石の言葉に焦点を当てたものがいくつか存在します。
その中から今日は2点ご紹介いたします。ひとつ目は、漱石のことば鉛筆。
五角形の鉛筆の側面に、漱石の作品「吾輩は猫である」から「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」、
「草枕」から「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」
と、誰もが知っている一文が刻印されています。
おこづかいでも購入できる価格なので、
小中学生にも使いながら漱石作品に親しんでほしいという思いがあるそうです。ふたつ目は、活版印刷メモ帳「夢十夜」。
こちらも漱石の作品「夢十夜」の第一夜の一節が抜粋され、表紙・メモ用紙部分に施されています。
新宿区の地場産業のひとつに印刷製本業があり、優れた印刷技術を活かしたグッズを作りたいと、
区内の佐々木活字店さんにご協力いただき完成しました。
文学作品をいかした個性的なミュージアムグッズとして注目され、
このメモを目当てに来館する方もいるそうです。今回ご紹介したグッズは、いずれも2階のパネルから選ばれた言葉が引用されています。
ご来館の際には、ぜひ展示されたパネルで漱石の言葉をゆっくりと味わい、
気に入ったものがあればミュージアムグッズでお持ち帰りください。(博物館実習生:星野)
テーマ:その他 2021年9月3日